【連載】IPMのすすめ ①(2015/7/5)

 有限会社TOMTEN(現 株式会社TOMTEN)が導入を進めているデイコム(Dacom)社の病害予察システムについて、同社の山道弘敬社長の解説をご紹介します。


 北海道は今、防除の季節です。有限会社TOMTEN(現 株式会社TOMTEN)は現在、九州で本格的な作物病害予察システムの稼働を準備しています。これに関連して、防除についての最新情報をご紹介します。

 さて、防除について話を始める時に必ず言及するのは、病気発生の3要素についてです。とりあえず空気感染性の病害防除を中心にお話ししますが、どのような病害であっても、病害発生の3要素がすべて揃っていなければ病気は発生しません。すなわち、①宿主としての作物、②病原菌胞子を周囲にまき散らす感染源、そして③その病原菌胞子が発芽生長するための環境です。

 宿主については言及するまでもありません。防除がうまくいった、あるいは防除しなくても発生しなかったという場合に、残りの二つ要素の視点から結果を評価することが大切です。防除を考える上では、感染源についての知識がまず必要です。例えば、ジャガイモ疫病の感染源については皆さん理解されているでしょうか。ジャガイモ疫病の感染源としてよく言及されてきたものに、前年に感染して保菌している種イモが挙げられます。この感染源については長年議論が絶えませんでした。というのは、疫病に感染している種イモを春に植えても、芽が出る前に腐ってしまい、本当に感染源として育つのかという疑問があるためでした。しかし、その中から非常に少数であっても植物が生長する場合には、感染源として十分な威力があることが分かっています。そして、種イモの病斑と地上に育った植物に発生した病斑との間の相関関係も疑われていたのですが、近年流行りの遺伝子を調べる方法で、その相関関係についても決着がつきました。このような感染した種イモから育った植物に発生する病斑はやはり種イモ由来のものでした。さらには、種イモの段階で外観上病気への感染が目に見えないけれども発病する「潜伏感染源」としての種イモの存在が分かってきました。病気を防ぐうえでは、十分に管理された圃場から出荷された種イモを手にすることが、最初のステップとして重要なことになります。

 しかしながら、実際の圃場で初発感染源として世界中で最も問題視されてきたのは必ずしも種イモではありません。それよりも、圃場の周囲に無造作に放置されているジャガイモのクズ山の方がはるかに重大なことが分かっています。このようなクズ山ではよくジャガイモ植物が育っているのを見かけますが、これこそが周囲に病原菌をまき散らす最も重大な感染源です。このクズ山については多くの先進国で規制の網がかけられています。春の一定期日までに黒いビニールで覆って、ジャガイモ植物が育たないように処理するよう法律や条例で定めている国も多くあります。違反すれば、相当な罰金を科せられることになります。

 生産者自らがこのような重大な感染源に無頓着であっては、いくら防除の知識を蓄えても意味がありません。腐れイモのクズ山を放置するようなことは、生産者は厳に慎まなければなりません。

 もう一つ、初発感染源として問題視されているものに野良イモがあります。野良イモに防除する人はいませんので、越冬して翌年発芽して育ち、感染源となる可能性があります。近年、温暖化のせいで越冬して翌年育つ野良イモの数が増えてきています。これは、確実に感染源の密度が増加してきていることを意味しており、環境が適している年には疫病が猛威をふるう原因の一つです。できれば、野良イモの処理もこまめに行うべきです。

 オランダでは、感染源としての野良イモの重要性からこの処理についても規制の網がかけられています。ある一定時期までに野良イモを低密度にまで処理しなければ、やはり罰金が科せられることになります。

 日本ではほとんど実例がありませんが、オランダではジャガイモ疫病の初発源に対して、広範な疫学的調査が過去に行われてきました。それは、慣行栽培農家と有機栽培農家との間の軋轢に端を発しています。つまり、慣行栽培農家が有機栽培農家を「地域の疫病感染源となって病原菌をまき散らしている」と糾弾したことに基づいているのです。この論争に決着をつけるべく、オランダ政府は栽培シーズン全体に渡って疫病がどのように蔓延していくのか、その経路を病原菌遺伝子を分析フォローすることで広範に調査しました。結論を言えば、初発源は前述の腐れたイモクズの山や感染種子で、有機栽培農家の圃場は二次感染源となっている点を否定できないというものでした。現在では、有機栽培農家であろうと慣行栽培農家であろうと、一定時期に一定以上の疫病に圃場が感染している場合には、焼却等の処分を行わなければならない規則になっています。有機栽培農家も地域への責任を問われているわけです。

 ところで、シーズンの初めは感染源が薄いのが普通です。したがって、発病する環境が整っていても、感染源の密度が低いために、感染しないことが多いのです。これはどのように評価すべきでしょうか。オランダで病害予察システムが使われ始めた時に、このようなシーズン初期に防除しなくても発病しなかった人たちは、病害発生予報がはずれたとよくはしゃぎまわることがありました。ところがその傍らに黙りこくっている生産者が必ずいました。彼らの圃場は病気に感染してしまったのです。

 これは病害予察とは何かを理解する上で、そして防除とは何かを理解する上で、重要です。つまり、病害予察とは病気になる環境を予測するものであり、感染源については存在することを前提としているものです。したがって、地域に一人でも感染している生産者がいれば、それは病害予察が正しかったことを証明するものです。今のところ感染源の分布を科学的に予測する手立てはありません。今回感染源とは何かについて詳しくご説明した理由は、感染源の分布を予測することが科学的に不可能なことを理解していただくためもありました。生産者にとって、感染源の存在を予測する手立てはありません。ゆえに、病気が発生する環境が予測されれば防除するというのが、現在考えうる最も確実な防除方法ということになります。

 さて、次回は病気が発生する環境について、そしてそれを予測する病害予察システムについて詳しくご説明いたします。