【連載】IPMのすすめ ⑥(2015/7/11)

 有限会社TOMTEN(現 株式会社TOMTEN)が導入を進めているデイコム(Dacom)社の病害予察システムについて、同社の山道弘敬社長の解説をご紹介します。


 デイコム社の病害予察モデルで最もよく利用されているのはジャガイモ疫病に対してのものです。ジャガイモは世界第4位の生産量の作物ですが、農薬による防除回数が多いことでも有名です。オランダでは農業全体で使われる農薬の半分以上がジャガイモ疫病に使用されています。したがって、ジャガイモの消費の多い国ではジャガイモ疫病のための農薬使用量も多いのが一般的です。それだけに防除タイミングが的確に分かればというニーズは潜在的に高いと言えます。この病害予察モデルはそもそもジャガイモ疫病を最初のターゲットとして作られました。

 次によく使用されているのはブドウや柑橘類などの灰色カビ病のモデルです。南アフリカ共和国はワイン用のブドウ栽培が盛んで、温暖な気候に適した柑橘類の栽培も盛んです。ここでのモデルの使用率は非常に高く、6~7割の生産者がこの病害予察モデルを使用しています。

 デイコム社の病害予察モデルは商業行為としてサービスされていますので、どうしても商業的価値の高い病害が利用上のターゲットになります。そういう点からして、日本のタマネギ栽培での利用は有望です。そもそも、病害予察モデルは感染源密度が高い地域ほどその威力を発揮します。これは、感染源のバラつきによる病気の発生への影響が小さくなるためです。

 世界的にはタマネギは輪作の中に組み込まれていますが、日本では連作畑での栽培が主流です。病原菌はタマネギの残渣に生息して越冬したりして、次の栽培シーズンを待ち構えていますので、同じ圃場に植えれば感染源が豊富な圃場にタマネギを植え付けることになります。したがって、環境条件さえそろっていれば、ほぼ間違いなく発病することになります。感染源の密度を低下させることをサニテーションと言い、IPMでの重要な手段となっていますが、輪作を行えない場合には病害対策は厳しくなります。

 日本の西南暖地では水田裏作でのタマネギ栽培が普及しています。これは、なかなか優れたサニテーション法です。水田による水責め技術を使わずに毎年同じ畑でタマネギを栽培すれば、病害の多発によって産地は非常に大きな困難に直面することになるでしょう。

 一般に空気感染性であろうと土壌伝播性であろうと、ある作物で有名になった産地ではどうしてもその作物の栽培頻度が高まることから、意識的な感染源対策が必要となってきます。これにはタマネギの水田裏作水責め方式のような特別なサニテーション技術が講じられないと、最終的には産地として成立しない所にまで追い込まれる場合が多々見られます。産地を維持する上では病害対策、特に感染源対策がとても重要になってくるわけです。

 ところで、タマネギにおいてはネギアザミウマ(Thrips tabaci)が病気を媒介して作物を搾取するので、良い品質と収量の確保にはこの害虫の対策が必要です。デイコム社のシステムではこのネギアザミウマの発生予察モデルを防除の参考に利用することが可能です。ネギアザミウマもネギの残渣に乗って越冬したりしますので、連作地帯での密度は高まってきます。したがって、タマネギの有名産地では病害虫両方に悩まされることになります。

 
 害虫防除でもタイミングが非常に重要で、害虫の生育ステージの変化に注目する必要があります。最初は卵の状態であったものが孵化して幼虫になり、そしてサナギになって成虫となり、再度卵を産みつけてライフサイクルが回ります。防除について言えば、農薬はこの生育ステージによって効力が違ったりしますので、生育ステージに合わせた対策が重要です。害虫の発生予報モデルにおいては、卵と幼虫、成虫のそれぞれのピーク発生時が予測されます。それをめがけて、卵なのか、幼虫なのか、成虫なのか、いずれかにターゲットを絞った防除が必要になります。薬剤も、可能ならば成虫に効力のあるもの、幼虫に効きやすいものなど、生育ステージ別に選択できれば理想的です。