ジャガイモシストセンチュウにどう対処するのか(2015/11/3)

 ポテトニュースジャパンはジャガイモシストセンチュウの汚染拡大に対して現実的な対策を提言します。


 シロシストセンチュウの発見で、今後ますますセンチュウ抵抗性馬鈴薯品種の開発と普及が叫ばれるようになるものと推測されます。抵抗性品種の栽培拡大は、シストセンチュウ蔓延対策において最も強力な手段であることは周知の事実です。しかしながら、抵抗性品種の栽培はなかなか進みません。この問題の解決にとって大きな障害になっているのは、男爵やメークインなどの強力なブランド名にどのように対応するかという現実的な課題です。

 これに対しては、あるジャガイモ関係者から聞いた話から提言を引き出したいと思います。この関係者は、シストセンチュウ抵抗性が重要であるならば、男爵イモやメークインなどにセンチュウ抵抗性を植え付けることを試みてはどうかと提案した人物でした。弊社はこの素朴かつ率直な意見に賛成です。実業の世界の人間としては極めて自然で納得のいく発想です。これはいわゆる性能の改善にあたり、大手のメーカーがずっと取り続けている戦略です。

 例えば、日本の国民車トヨタのカローラはモデルチェンジを何回も繰り返してきましたが、名前だけは大切に温存しています。ロッテのガーナミルクチョコレートは、時代のトレンドに合わせて絶えず微妙に味の調整をしてきたことで有名です。しかし、それを突然トンガミルクチョコレートに変えたりは絶対しません。それは、「ブランド」は商業行為においてきわめて重要なテーマだからです。男爵やメークインは品種名だと思っているジャガイモ関係者が多いかもしれませんが、100年にもわたる販売努力によって「ブランド」としてのステータスを獲得していると評価すべきでしょう。そうであるならば、このような価値ある「ブランド名」をより高めていくための改善努力は、販売努力を重ねてきた商業人の努力に報いてさらにその価値を高める行為として、多くのジャガイモの販売・加工に携わっている人達から強い支持を得ることでしょう。

 ところが、前述の関係者によれば、そのような商業界では当たり前の行為は「ジャガイモの育種家」からは愚かな行為として歯牙にもかけてもらえないというのです。弊社に言わせれば、歯牙にもかけるべきでないのはこのようなことを常識として理解できない育種家の方です。ジャガイモについて言えば、つい最近米国で話題になったシンプロット社の遺伝子組換えジャガイモ「イネイト」は、ラセットバーバンクに疫病抵抗性や打撲耐性などの遺伝子を組み込んだれっきとした性能改善品種です。このような性能改善行為は、同じジャガイモの世界であっても珍しくはないわけです。ところが、日本の育種家は「男爵」を超える新品種を育成すべきであると言うらしいのです。

 ではどうやったら男爵を超える品種が生まれるのでしょうか。今のままで、そのようなことが起きるわけがないと弊社は考えています。それは、なぜ100年以上も男爵やメークインに置き替わる品種が生まれないかという理由でもあります。育種家は品種は品種の力だけで売れると信じているようですが、どのような製品であれ、品種のような製品固有の品質の力だけで売れたりはしません。販売を一度でも経験したことのある人間であればすぐに分かることなのですが、モノが余っている時代の販売には作る以上に大きな努力が必要です。その品種に惚れ込んで売ろうとする努力を惜しまぬ人が生まれてこなければ、商品力だけで売れるなど稀有の現象です。販売の大変さを分かっているメーカーであるからこそ、カローラの名前の下で、これでもかこれでもかと性能改善を繰り返して、販売を追求するのです。

 ブランド名の大切さをいかに農業関係者が理解していないかということを象徴する事例が過去にありました。ご記憶の方もいらっしゃると思いますが、北海道に「チホク」というコムギ品種がありました。北海道の麺業組合の人達は過去にこの品種に惚れ込み、ブランドとして育てるために多大なる努力と投資を行いました。そして、この努力は実を結ぶかのように思われました。東京の市場では、麺業組合の努力のおかげで、「チホク」の名は消費者から畏敬の念で見られるところまで定着しかけました。ところが、消費の現場を全く意識していない北海道のコムギ関係者は、その知名度の絶頂期にさっさとチホクを捨てて、新しく出た品種に急速に乗り換え始めたのです。やっと定着しかけた「チホク」の名は、生産者自らの手で葬り去られることになりました。すべての努力が水泡に帰した麺業組合の人達は、この記憶が消えぬ限り、二度と北海道産の小麦のプランド化を真剣に考えたりはしないことでしょう。

 なぜチホク2号とかチホク3号とかでチホクの名前を温存できないのか。関係者は法律だからしょうがないと言っていましたが、地域や業界のためにならない馬鹿な法律は変えればよいだけです。関係者の売ることに対する意識の低さを露呈する極めて残念な事例でした。

 しかしながら、常識的なことがまかり通らないのが官の関与する分野においては普通に見られることです。このように現実的な対策を披露しても、恐らくさらに100年たっても状況は変わらないでしょう。売る努力の伴わないシストセンチュウ抵抗性品種がその品種力で定着するのが早いか、抵抗性のない男爵やメークインのせいでまともな男爵やメークインが取れなくなるまでセンチュウが蔓延して、やむを得ず切り替えざるを得なくなるのが早いか、今のままではだいたい結果は想像がつきます。定着している男爵やメークインのブランド名を利用しつつ、ジャガイモシストセンチュウの対策を推し進めるという戦略は極めてストレスの低い、費用対効果の高い戦略です。法律を変えてでも取り組むべき対策でしょう。さもなければ、安倍首相が言う農業所得の倍増が実現される日は訪れることはないと断言できます。


ポテトニュースジャパン編集部