【特集】タマネギの首腐れ病(ネックロット)について(2015/5/23)

 日本では一般に灰色腐敗病と呼ばれるこの病害は、世界的には「首腐れ病(ネックロット)」と呼ばれ、その対策について様々な研究が行われてきました。これまでの研究成果と有効な対策についてまとめました。


病原菌

 タマネギの首腐れ病に関係があると考えられている病原菌にはボトリティリス属の7種類の菌が報告されています。この内の3種類が主に首腐れ病に関係していると考えられています。それは、日本では一般的に灰色腐敗病の病原菌とされているBotrytis allii(ポトリティス・アリ)と、米国・欧州で報告されているBotrytis aclada(ポトリティス・アクラーダ)、そしてBotrytis byssoidea(ポトリティス・ビソイディア)です。これ以外にも、Botrytis cineria(ポトリティス・シネリア)、Botrytis porri(ポトリティス・ポリ)、Botrytis squamosa(ポトリティス・スクアモッサ)、Botrytis tulipae(ポトリティス・チュリパエ)なども首腐れ病に関係していると報告されています。前者の三種類については伝統的な分類手法においては顕著な差異が認められず、3種類の菌は同一のものではないかという推測もなされていました。ところが、最近発達してきた遺伝子レベルのいくつかの比較検証法により、以下のようなことが明らかになってきています。オーエン(Owen-①)等の初期の研究報告では、Botrytis acladaBotrytis byssoideaは確かに正当の種と位置付けることができるが、Botrytis acladaには二つの亜群(subgroup)があることを染色体数と分生胞子の大きさから証明しました。これに対して、最近のPCR法やITS-RFLPs法などにより、AⅠ及びAⅡと命名された2つの亜群とBotrytis byssoideaは異なるものであることが改めて示されています。ニールセンとヨハレム(NielsenとYohalem-②)は、大きい胞子の亜群AⅡは、小さい胞子の亜群AⅠであるBotrytis acladaBotrytis byssoideaとの交配によって生まれたと結論付けました。そして、AⅠ亜群をBotrytis aclada、AⅡ亜群をBotrytis alliiとすることを提案しています。この提案の中でのBotrytis acladaBotrytis byssoideaとの交配については、3つの細胞核タンパク質遺伝子(RPB2、G3PDH、HSP60)に基づくポトリティス属の最近の分子系統学の評価においても支持されています。したがって、ニールセンとヨハレムの提案前と提案後においては、Botrytis acladaBotrytis alliiの意味しているものが違っていることが分かります。この提案前においてはBotrytis acladaBotrytis alliiには明確な区別がなく、同じものを指していた考えられます。そして、提案の後では今度は明確に区別出来るようになったものの、それまでのBotrytis acladaBotrytis alliiが指していたものとは異なることになり、提案前よりも意味している範囲が狭まっていることになります。

 このような歴史的経過をたどると、これらの病原菌がBotrytis acladaであるのかBotrytis alliiであるのかにこだわることがそれほど意味のあることでないことが分かります。さらに、ワシントン州立大学のMartin等は、首腐れ病において、三種類の病原菌B.alliiB.acladaB.byssoldeaの重要度はほとんど変わらず、これらの区別しにくい病原菌を識別することにそれほど大きな意味はないと述べています(③)。

 したがって、ポテトニュースジャパンでは灰色腐敗病という和名を使わず、世界で一般的な「首腐れ病」の名称を採用することとしました。

 なお、オランダではすでに首腐れ病の病原菌としてはBotrytis acladaAⅠ型とBotrytis alliiAⅡ型しか認められていないことについて、応用植物研究所(PPO-AGV)の報告書に記載があります。これは、明らかにニールセンとヨハレムの提案に沿った新しい分類法によっていることが分かります。

出典:
①Owen他.1950年「Valiability in onion neck-rot fungi」Phytopathology 40:749-768頁.
②Nielsen,Yohalem.2001年「Origin of a Polyploid Botrytis pathogen through interspecific hybridization between Botrytis alli and Botrytis
 byssoidea」Mycologia 93:1064-1071頁.
③Martin他.2006年「Detection and Identification of Botrytis Species Associated with Neck Rot, Scape Blight, and Umbel Blight of Onion」
 PMN.


病気の症状について

 首腐れ病の症状は主に貯蔵中に現れることが多く、内部腐敗が進行しても外見から分からないことが多いのもこの病害をやっかいにしている理由です。この病害の最初の感染源は土壌中に残されたタマネギの履病残渣や廃棄したタマネギの山です。冷涼で湿潤な天候が続くと、そこで発生した病原菌胞子は風に乗って飛来して、近傍の作物の葉に展着します。感染に適した環境条件が整っているためにタマネギへの侵入が圃場で起こっていても、典型的な症状は圃場で確認されることが稀なために、対策が後手に回ることが多くなります。非常に湿潤な条件下ではポトリティス属の菌の分生子柄と分生子が老化が進んだ葉に見られることがありますが、区別するには寒天培地で培養したり、複合顕微鏡で分生子の大きさを測定したりする必要があり、簡単ではありません。

 貯蔵中にタマネギの鱗茎に感染が進むと、水潤状の腐敗が広がっていきますが、これは首の内部から始まっている場合が多いです。ただし、外観からは判別がつきません。感染は時間の経過と共に鱗茎全体に広がっていきます。収穫時に傷が付いたりすると、その部分から感染して腐敗に至ることも報告されています。白い菌糸が鱗片の間に形成されて、灰色の分生子柄と分生子の塊が見られることがあります。黒褐色か黒色の扁平な菌核が首の部分に形成されることもあります。

 畑での蔓延が比較的まれな北半球の北部地帯では、この首腐れ病の主たる原因は収穫作業とその後の乾燥作業にあると考えられてきました。すなわち、畑で茎を刈ったその傷口から感染が始まり、その後の乾燥作業と乾燥終了に至る時間が遅いことが貯蔵時の腐敗進行の主たる原因であるとされています。収穫後にこの首腐れ病の病原菌の感染経路になる首部分を素早く十分に乾燥させて病原菌の進行を食い止めることが、この病気の対策上最も有力であると考えられており、そのために収穫後の乾燥作業においてはスピードが要求されることになります。首上部10cmの位置で切断することも、残った茎の長さが短いと乾燥前に鱗茎への感染が容易に進んでしまうことを考えての措置です。さらに、乾燥後においても乾燥状態を維持することが重要な理由は、一旦乾燥した茎が濡れることで、再び病原菌が動き始めるからです。したがって、収穫後は素早く乾燥して、その後は乾燥状態を維持する貯蔵管理が特に重要になってきます。なお、オランダの貯蔵方式で御紹介したとおり、22℃から25℃が首腐れ病菌にとって発育の最適な温度なので、この温度帯は素早く超越する乾燥温度管理が必要です。貯蔵管理上最悪なのは、中途半端な乾燥をして、中途半端な温度帯(22~25℃)に長く置くことで、これは病原菌を自ら培養しているようなものです。くれぐれもこのような状態にならないように、管理を今一度見直すことが大切です。


ポテトニュースジャパン編集部