ポテトニュースジャパン特別寄稿:種芋の生産性向上に向けて

種子イモ浴光育芽装置
種子イモ浴光育芽装置の設置例(側面)

畑作の基幹作物であるジャガイモの種子イモ生産が危機に瀕している。種子イモの栽培には、塊茎単位栽培方式が義務付けられており、抜き取りも行わなければならず、手間がかかり、その割には収量も低く、農家にとって魅力のない作物となっている。種子イモの生産が危機に瀕しているという事は、ジャガイモ栽培そのものが危機に瀕していることにほかならない。

その一方で、世界第一の種子イモ輸出国であるオランダでは種子イモ生産についての事情が全く異なっている。私はオランダの種子イモ生産者を何度も訪れて、インタビューを繰り返してきたが、異口同音に種子イモ生産が最も安定していて、収益性も高いから、種子イモの生産をすると誰もが説明する。この違いは何か。日本の種子イモ生産に対しての改善ポイントは何か。これまでの、インタビューの結果をご紹介したい。

オランダの種子イモ生産者の誰もが指摘する第一のポイントは、種子イモ生産においてはイモ数を増やさなければいけないという点である。その方法にはいくつかあるが、基本的にはジャガイモに特有の頂芽優勢性を除去するというてんポイントである。御存知の様に、ジャガイモは発芽時期になると太くて丈夫な芽がストロン側とは反対の側に一本伸びてくる。これを頂芽というが、この頂芽が健在のうちは他の芽から芽が伸びてくるのが阻害される。このことを頂芽優勢性といっている。つまり、頂芽が元気な種芋からは少ない数の茎しか成長できない。ここで、茎の数とイモ数とは比例する。従って、一個の種芋から伸びる茎の数が少ない株ではイモ数が少なく、株当たりの生産性が均一であると考えると、結果的にゴロンゴロンと大きな少ない数の塊茎が生産されることになる。

そこで、この頂芽優勢性を取り除いて、一個の種芋から伸びる茎の数を増やすための方策が取られることになる。その方法として、最も簡単かつ原始的な方法は、頂芽が伸びた種芋から頂芽を取り除くことである。ドラム缶を横にして、その中心軸にハンドルをつけたような簡単な装置に頂芽が出た状態の種芋を入れて、ゴロンゴロンと回して、頂芽を機械的に取り除くというものである。この方法は簡単ではあるが、種子イモを傷つけてしまい、病害への感染の危険性も増加する。近年ではあまり行われていない。

一般的な頂芽優勢性を除去する方法は薬剤を使う方法である。オランダではハーブの精油であるタレントという薬剤が使われることが多いが、日本では認可されていない。ジベレリンというホルモン剤を種子イモに適用すると効果があるが、これは突然変異の可能性を助長する。ジベレリンを添加した種子イモから成長した茎葉からは形態の異なる葉が伸びることが観察されている。従って、種子生産には不向きである。

日本において特定農薬として発芽防止効果が期待されて使用されているエチレンには頂芽優勢性を除去する効果があることが分かっており、イギリスにおいては早くからイモ数を増やすための処理として、使用されてきた。突然変異の可能性の最も低い、安全な薬剤処理がエチレンである。種芋を倉庫において、45日から2か月程度、4ppm~10ppm程度の濃度に浸せば、頂芽優勢性は壊れるので、これを種芋生産用の種子として利用するのが良い。ちなみに、エチレンは今のところ発芽防止目的だけに使用が許されているが、種芋への使用にはそれほど問題があるわけではない。特定農薬という性質上、利用する場合には「種芋への適用」について、農水省へ申請すればよい。そうすると、「自己責任で何があっても、国は面倒を見ません」という返事が来るはずである。あとは、効果について、十分に検証して、自己責任において効果を確かめながら使用することになる。

種芋の生産において、もう一つ重要なことがある。それは、浴光育芽である。オランダでは浴光育芽の改善において、近年兆速の進歩があった。それは、バッグを使用した育芽方式の採用と、それによる育芽期間の長期化である。

主に屋外で育芽が行われているが、その期間は場合によっては2か月近くに及ぶ。凍らない程度に冷たい空気がある屋外で十分な光にさらして、ゆっくりと芽を育てる。光が十分にあって、温度も高くならない場合には、脱落しにくい丈夫な芽が育ち、根の原器も形成されるという。この状態で、植え付けると初期生育が早まり、収量増加につながるという。種子イモ生産においてはウィルスへの感染の恐れから、アブラムシの飛来前までしか栽培できないのは万国共通である。従って、種子イモの収量を増加できるかどうかは、初期生育の速さにかかっている。その初期生育の促進に効果があるのが浴光育芽であり、その期間もかなり長期化している。バッグごと簡単に場所を移動できることから、それが実現可能となってきた。

約45日間育芽した状態の種子イモ

このシステムを開発したコール・ヨッペさんの話では、光の役割は25%、後は新鮮な冷たい空気が重要であり、高い湿度や炭酸ガスも良くないという。それには、屋外が最適というわけである。オランダの研究機関の報告によると、この浴光育芽の促進による収量増の効果は何と1ha当たり5㌧にも及ぶ場合があるという。

バッグの中の種子イモ
屋外で育芽している状態、白い部分はレインカバーでこれを 被せておけば、雨が中に浸透することはないという
プランターに直接、育芽した種子イモを供給している(下のマジックテープを外すと、簡単に供給できる)

最後に、全粒種子生産の促進を推奨したい。小さな種子イモを多数栽培して、切断せずに種芋を植え付ける。それが、オランダの方式であるが、オランダでは黒脚病の蔓延防止の観点から、そもそも種子イモの切断が許されていない。全粒種子生産において、重要なのは種子イモの選別である。塊茎の大きさ別に予め選別しておいて、種子塊茎の大きさに応じた株間に調整することが大切である。種芋を正確に切断することが困難なことを考えれば、全粒種子生産に是非取り組んでいただきたいものである。全粒種子生産にはもう一つ大きなメリットがある。それは、抜き取りの時に、一株だけ抜き取ればよいことである。塊茎単位栽培法では、切断した一個の種子イモから伸びた株は、もしもどれかに異常が見つかった場合には、すべて抜き取らなければならない。抜き取りによる収量の低下を最小限に抑えることができる。

このように、危機に瀕しているように見える日本の種芋生産については、先進国のオランダを模範にすれば十分な打開策がある。現状に嘆いてばかりおらず、是非改善に取り組んでいただきたい。

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